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2019.08.21 Wednesday | - | - | -

詩「鯏」


夜が 遠くから

こくこくと押し寄せてくるとき

君は窓から手を伸ばし

夜の 浅いところに手を入れる

君が手を動かすたび 空全体に波紋が広がり

星と星とがぶつかり合う

硬質な音が微かに聞こえた


やがて君が引き抜いた手には

ひとにぎりの貝が握られている

君はそれをお味噌汁にすると言い

両手に包んで台所に持っていく


電気をつけない台所で

君は片手鍋に貝と水 それから少しの塩を入れる

貝が星のかけらを吐きだす度

そこいらじゅうが淡い光に満ちた

何度水を換えても

貝が星を吐き尽くすことはなかったから

たいていはじゃりじゃりしたお味噌汁だった


お金のない頃はそんなものばかり食べていた

あの頃はあんなに空が近かったのに

今ではどう手を伸ばしても 空の端にすらさわれない

2019.08.21 Wednesday 06:37 | シ# | comments(0) | trackbacks(0)

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